今回はモバイルバッテリーの安全性について取り上げます。
スマホやタブレット等デバイスのバッテリー切れ対策として、多くの方がモバイルバッテリーを利用されていると思います。でも、実は多くのモバイルバッテリーに採用されている「三元系リチウムイオン電池」は、使い方や充電方法を誤ると発火や爆発の危険性があることをご存知でしょうか?

数年前、スマホのバッテリーから出火したり爆発したり…といったニュースが立て続けに報道されたことがありました。スマホのバッテリーは「三元系リチウムイオン電池」を使っていますが、実はモバイルバッテリーも同じくリチウムイオン電池を採用しているので、スマホと同程度の発火・爆発のリスクがあるのです。
今回の記事の主旨は、モバイルバッテリーの発火や爆発の危険を回避して、より安全に安心して使えるモバイルバッテリーへの代替を検討してはいかがですか?です。
モバイルバッテリーは三元系リチウムイオン電池採用
モバイルバッテリーは、電気を貯めておいてスマホバッテリーなどを充電することができる「携帯可能な電源」です。
実は、モバイルバッテリーの多くはリチウムイオン電池を採用しています。その理由は…
- エネルギー密度が高いこと
リチウムイオン電池は他のバッテリー素材に比べてエネルギー密度が高く、同じサイズでより多くの電力を蓄えることが可能です。携帯性が重視されるモバイルバッテリーに向いた性質です。 - 軽量化しやすいこと
エネルギー密度が高いため同じ出力・容量であれば他の電池に比べて軽量化が可能です。 - 急速充電が可能なこと
リチウムイオン電池は急速充電が可能であり、短時間で充電を完了することができます。
しかし一方で、リチウムイオン電池には避けて通れないリスクを併せ持っています。
リチウムイオン電池のモバイルバッテリーは危険?
こちらは、リチウムイオン電池の「釘刺し」実験の様子で、電池に釘が刺さるとガスが噴き出し、発火する様子が撮影されています。

こんなの机上の空論だよ、だってバッテリーに釘を刺すことなんてないじゃない?
と思うかもしれませんが、数年前のスマホの発火・爆発事件の原因は「スマホを尻ポケットに入れたまま座ってスマホごとバッテリーも折れ曲がって」発火した事例がありました。また地震などで棚やデスクから落下するなど、バッテリーに大きな衝撃が加わることが全くないとは言い切れません。
また、充電中や保管中の事故なども報告されているようですので、三元系リチウムイオン電池には常に発火・爆発のリスクがつきまとうと考えた方がよさそうです。
リチウムイオン電池には電解液が満たされており、正極側と負極側を仕切った構造になっています。衝撃等によって正極側と負極側が短絡すると急激に加熱、揮発した可燃性の電解液が発火する場合があります。
リチウムイオン電池の発火・爆発は、電池内の2種類の液体が混じってしまうことによって起こりますが、そうした状況は釘刺しだけでなく変形したり無理な力が加わることで起き得ます。また長時間充電等によって高温になり過ぎたことで発火する場合もあります。

こちらの図では、同じリチウムイオン電池でも使用している素材によって安全性に違いがあることがわかります。スマホやモバイルバッテリーの電池は表内の「三元系」にあたります。
もちろん、三元系リチウムイオン電池を採用した製品すべてが発火・爆発するわけではありませんが、電池の素材によって発火・爆発しやすさに差があるということは紛れもない事実です。
モバイルバッテリーを購入する際や、所有・使用する際には、このリスクについては常に意識しておくべきです。
リチウムイオン電池を原因とする火災発生件数

ちょっと怖い数字をご紹介します。こちらのグラフをご覧ください。
これは、東京消防庁がまとめた令和5年中のリチウムイオン電池搭載製品の「製品用途別火災状況」の件数グラフです。
これを見ると、令和5年に「モバイルバッテリー」を原因とした火災が44件起きていて、同じタイプの電池を採用している2番目の携帯電話・スマートフォンの数と合わせると61件となり、全体167件の37%を占めています。
無暗に怖がらせたいわけではありませんが、こうした現実の数字を目にすると、リチウムイオン電池を原因とする火災の多さに驚かされます。特にモバイルバッテリーの件数の多さは頭抜けています。
※実際にこうした報道もあります。
大手ショッピングモールなどで売られている名も知れぬ海外製バッテリーが多く出回っているモバイルバッテリーに火災発生が多いのだとすれば、製品選びはもっと慎重になってもよいのかもしれません。
というより、出火・爆発のリスクのあるリチウムイオン電池採用の電源の使用自体を検討し直した方がよいのかもしれません。
※筆者が愛用していた三元系リチウムイオン電池採用のポータブル電源でも火災事故発生しちゃことでリコールになった事例があります。ポータブル電源界隈では著名なメーカーの製品ですし、メーカー自体も信頼していたので驚くと共に、三元系リチウムのリスクは身近なものと再認識しました。
半固体電池やリン酸鉄リチウム電池の安全性は高い?
こちらは、ポータブル電源メーカー「DABBSSON」が提供している動画で、「三元系リチウム」「リン酸鉄リチウム」「半固体リン酸鉄リチウム」の釘刺し実験の様子です。。
この動画を見れば一目瞭然のように、三元系リチウム電池では発煙・発火・爆発のリスクが高いのがよく分かると共に、対照的にリン酸鉄リチウムや半固体リン酸鉄リチウムの安全性の高さもよく分かります。

三元系リチウムイオン電池が必ず発火・爆発するわけではないですし、ちゃんとしたメーカーの製品であればそのリスクは低いと思いますが、仕組みや素材の点で発火・爆発のリスクが高いことは避けようのない事実です。その点「リン酸鉄リチウム」万が一の場合でも発熱とガスの噴出はあるものの、発火・爆発のリスクが非常に低いという点は大きなメリットです。さらに「半固体電池」は、多少の温度変化のみで発煙も発火も見られず安全性の高さが際立っています。
半固体電池・準固体電池とは?
半固体電池とは、電解質が完全な液体ではなく、ゲル状や粘土状の物質を使用した電池のことです。これにより、従来のリチウムイオン電池よりも安全性が向上し、エネルギー密度も高くなります。半固体電池には以下のような種類があります。
- ゲルポリマー型:ゲル化した電解質を使用し、形状の自由度が高い。
- クレイ型:電解質を粘土状の物質に練り込んで電極として使用し、液漏れや発火のリスクを低減。
- 液添加型:電極部材に少量の電解液を染み込ませ、温度変化に対して安定性を向上。
準固体電池は、半固体電池と似た概念で、電解質が固体と液体の両方を含む「固液混合型」の電池を指すことが多いです。これにより、全固体電池ほどの製造難易度を伴わずに、安全性やエネルギー密度を向上させることができます。
これらの技術は、EV(電気自動車)やポータブル電源などの分野で注目されており、今後の普及が期待されていますが、身近なところではモバイルバッテリーやポータブル電源などへの採用も徐々に増加してきています。
準固体電解質モバイルバッテリー HAMAKEN WORKS HW-SSPB050

「それならば」と、筆者自身で安全性が高く長寿命の準固体電池を採用したモバイルバッテリーを購入して使ってみました。
購入したのは『HAMAKEN WORKS』というメーカーの準固体電池モバイルバッテリーで容量は5,000mAhです(10,000mAhの製品もあり)。
非常に小さく薄型でバッグの中でも邪魔になりません。接続端子はUSB-Cが1つだけで、入力と出力はバッテリーが自分で判断します。電源に繋げば自動的に充電になり、スマホに繋げば放電(スマホを充電)になります。
その他には、動作状態を表す緑のインジケーターが1つ、充電残量を示す白いインジケーターが4つあるだけのシンプルな構成です。
出力電流12A・電圧4.4Vと記載があるので、出力は52.8Wとなります。どこにもPD対応との記載はありません(※)が、緑のインジケーターが点灯するのはPDが成立した時だとのコメントもありました(未確認)。
メーカーに問い合わせたところ、PD対応品であることが確認されました。
入力:5V/3A、9V/2A、12V/1.5A(最大18W)でのPD充電に対応、出力:5V/3.1A、9V/2.22A、12V/1.67A、10V/2.25A(最大22.5W)でのPD出力が可能とのことです。またPD充電中は緑のインジケーターが点灯することも確認できました。
なお、メーカーがアピールする特徴は以下の通りです。
- 高性能準固体電解質採用モバイルバッテリー:
液体含量をわずか3%に抑えた準固体電解質を採用し、高い安全性と高いエネルギー密度を両立、従来のモバイルバッテリーの概念を覆す画期的な製品。 - 高い安全性:
準固体電池は、釘を刺したり、落下させたり、強い衝撃を与えても燃えず、液漏れや爆発の心配もありません。さらに高品質な部品と過充電・過放電・ショートなどの多重保護回路を搭載することでより安全なモバイルバッテリーを実現。 - 長寿命:
2000回の充放電サイクル(容量80%※)を実現しました。既存の液体ポリマーバッテリーと比較し4倍以上のサイクルとなり、長期間にわたり高い性能を維持。固体電解質を採用することで、リチウムデンドライトの発生を抑えることで、バッテリーの寿命を延ばし、安全性が向上。
※三元系リチウムイオン電池は充電サイクル500回程度 - 航空機機内持ち込み可:
高エネルギー密度280Wh/kgという高いエネルギー密度を実現しました。通常の液体電解質モバイルバッテリーやリン酸鉄バッテリーと比較し、小型軽量でありながら、大容量のバッテリーパックです。国内外の飛行機に持ち込み可能で長時間のフライトの際にも便利。

昨今では、三元系リチウムより安全ということで、ポータブル電源メーカーの多くはリン酸鉄リチウムにシフトしていますが、この表によれば、準固体リン酸鉄リチウムは、リン酸鉄リチウムよりさらに安全性が高く長寿命でありながら、三元系同等のエネルギー密度を実現しています。

普段の使用で準固体電池であることを意識することはまったくありません。充放電時に何らかのクセや特徴があるわけではなく、従来製品と何ら変わらずモバイルバッテリーとして利用できます。それでいて充電サイクル2000回の長寿命だし、何かあっても発煙・発火・爆発の心配がないのですから何も文句はありません。毎日ショルダーバッグに入れっぱなしでどこへ行くにも携行していて、iPhoneの電池残量が減ってきたらケーブル繋ぐだけで簡単に充電できます。

一部にHAMAKEN WARKS(浜田電機)製なので国産…という記述がみられますが、浜田電機は販売者であり、Amazonには原産国:中国と明記されています。
ナトリウムイオン電池モバイルバッテリー エレコム DE-C55L-9000
もう1つ、三元系リチウムイオン電池に比べて安全性が高いとされる電池があります。それが「ナトリウムイオン電池」です。
ナトリウムイオン電池(Sodium-ion Battery)は、リチウムイオン電池の代替として注目されている二次電池の一種です。主に以下のような特徴を持っています:
- 主成分がナトリウム:従来のリチウムイオン電池はリチウムを利用していますが、ナトリウムは地球上に豊富に存在し、より安価に供給できるため、コスト削減のメリットがあります。
- 環境負荷が低い:ナトリウム資源は広く分布しているため、特定の地域に依存せず採掘の環境負荷が比較的低いです。
- 安全性が高い:ナトリウムイオン電池はリチウムイオン電池に比べて熱安定性が高く、発火のリスクが低いとされています。
一方で、エネルギー密度の低さやサイクル寿命の課題などがあり、リチウムイオン電池に比べて性能面での改善が求められています。しかし、最近は材料開発の進展により、電気自動車や再生可能エネルギーの蓄電用途としての実用化が進んでいます。
何よりも注目なのは、ナトリウムイオン電池がリチウムイオン電池と比較して発火リスクが低いとされることです。特に、高温環境や衝撃に対する耐性が高く安全性の面で優れた特性を持っているとされます。また、ナトリウムは資源が豊富であり、供給の安定性や価格面でのアドバンテージを持っています。
そんなナトリウムイオン電池を採用した世界初のモバイルバッテリーがエレコムから発売されました。
リン酸鉄リチウム電池採用のモバイルバッテリー
まだあまり数は多くありませんが、安全性と長寿命に優れた「リン酸鉄リチウム電池」を採用したモバイルバッテリーが徐々に増加しています。
もし、モバイルバッテリーの買い替えた追加購入を考えている場合には、リン酸鉄リチウム電池や半固体リン酸鉄リチウム電池採用の製品を検討してみてはいかがでしょうか。
リン酸鉄リチウム電池採用小型ポータブル電源① Jakcery 100 Plus

リン酸鉄リチウム電池採用のモバイルバッテリーはありませんが、ポータブル電源の老舗メーカーJackery(ジャクリー)などでは小型ポータブル電源の開発が進んでおり、手のひらに乗るようなサイズや、リュックで持ち運びできるようなサイズの電源をリリースしています。
筆者としては日々のスマホ充電における安全性を重視するなら、リチウムイオン電池採用のモバイルバッテリーから、リン酸鉄リチウム電池採用の小型ポータブル電源へのスイッチも要検討です。

Jackeryの最小ポータブル電源「Jackery 100 Plus」です。
もちろん電源には安全性の高いリン酸鉄リチウム電池採用で、小柄ながら定格出力128W・充電容量99.2Whを有します。容量99.2Whを換算すると31,000mAhと、5,000mAhクラスのモバイルバッテリー6個分、10,000mAhのバッテリーの3個分以上の充電容量となっています。
出力・容量から考えて家電への出力は難しいためACコンセントはありませんが、USB-Aを1ポート、100WのUSB-Cを2ポート備えます。
サイズは126x86x87mm、重量は1kgを切る965gの小型軽量ぶりです。
リン酸鉄リチウム電池採用小型ポータブル電源② Jakcery 240 New

「100 Plus」ではちょっと容量が足りない、AC出力も欲しい…という方にはこちらがおすすめです。
こちらは、100Plusよりも一回り大きな「Jackery 240 New」です。一回り大きいと言ってもサイズは、231x153168mm、重量は約3.6kgとこちらも充分に小型軽量なポータブル電源です。
240Newもリュックにつめて持ち運びできるサイズに収まっています。
100Plusとの大きな違いは、定格出力300W・容量256Whの出力・容量を有するのでACコンセントから家電を使うことも可能です。ちなみに256Wh容量を換算すると69,189mAhとなり、5,000mAhクラスのモバイルバッテリーなら約14個ぶんの電力を蓄えておくことが可能です。
もちろん「240 New」もリン酸鉄リチウム電池を採用して安全性と長寿命は担保されています。
出力ポートは、ACコンセント×1、USB-A×1、15W・USB-C×1、100W・USB-C×1を備えます。
燃えない・爆発しないモバイルバッテリー まとめ
今回は、モバイルバッテリーのほとんどに採用されている三元系リチウムイオン電池に潜む危険性やリスクを紹介するとともに、発火・爆発しない半固体(準固体)リチウム電池やリン酸鉄リチウム電池採用のモバイルバッテリーや超小型ポータブル電源を紹介しました。
製品1個の価格は割高に感じるかもしれませんが、繰り返し使える回数=充電サイクルが500回程度の三元系リチウム電池と比べて、4~6倍もの長寿命(充電サイクル2000~3000回)を誇る半固体・準固体電池やリン酸鉄リチウム電池は、次の買い替えのことまで勘案すると逆に割安になるのではないかと思います。
その上、安全性に優れるという特性は何にも代えがたいメリットだと言えます。
もしモバイルバッテリーの新規購入や買い替えを検討しているのであれば、「安全性」や「長寿命」を担保した製品もあることをお知らせします。
それでは今日はこの辺で。